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author 川根公樹


author 鈴木淳


author 瀬川勝盛

G-CSF遺伝子のクローニング

Front Wave in Hematology 2003 No,7 Decemberより

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私は1981年暮れ、4年2ヶ月に及ぶスイス・チューリッヒでの留学を終え帰国した。1982年1月から東京大学医科学研究所に助手として赴任し、最初の仕事が東京大学入学試験の試験監督。駒場東京大学教養学部・図書室の一角で昼食をとっていると隣に座っていた太ったおじさん(浅野茂隆氏、当時東京大学医科学研究所内科講師)が「君は医科研の人間?どこにいるの?」「数週間前にスイスから帰国しました。上代先生の研究室にいます。」「スイスで何をしていたの?」「インターフェロン遺伝子のクローニングです。」「フーン。白血球を増やす因子(CSF)を作っていると思うがん細胞を持っているのだけれど、興味ある?一緒にやらない?」これが、4年近くかかったG-CSF遺伝子のクローニングに取り掛かるきっかけとなった。まず、ヒトがん細胞がCSFmRNAを発現しているかどうか確認する。すなわち、がん細胞からmRNAを調製しこれをアフリカツメカエルの卵母細胞に注射、2日間培養後、その培養液のCSF活性を測定する。その当時はCSFに応答する細胞株は知られておらず、また、ヒトCSFがマウス細胞に作用するかどうかもわからず、浅野先生自ら、あるいは医局のメンバーの骨髄細胞を用いて、CSF(コロニー形成)のassay。三日後に先生の教室に見に行くと、「長田君、CSFのassayは1週間かかります。途中でCO2 incubatorを開けるとコロニーの出来が悪くなります。」そこで、1週間後、改めて先生の研究室へ。Assayのプレートすべてにたくさんのさまざまな色のコロニー。「先生、これは?」「カビです」「エ、fungi-colony stimulating factor?」。

 しばらくして中外製薬で野村仁氏(現東京大学先端研究所・教授)がヒトがん細胞(CHU-2) からCSFを精製し、中外製薬から土屋正幸君が医科研の私の研究室に加わり、cDNAのスクリーニングが始まる。その間、毎月一回は中外の研究所で打ち合わせ会。オーストラリアやアメリカのグループからGM-CSFやIL-3のcDNAがNatureに発表されるが我々の追っかけているものとは違うようだ(違ってほしい)。1985年夏、cDNAが取れる。しかし、組み換え体のCSF活性はもうひとつ。しかも、cDNAの配列が精製した蛋白質のアミノ酸配列と1箇所合わない。またスクリーニング。Alternating splicing の産物で、新たに取れたcDNAは最初のものに比べ10倍以上高いCSF活性を示す。中外製薬・研究所の小川所長と掛け合う。「論文を書きます。12月の分子生物学会で発表しようと思います。」小川所長「わかりました。こちらは特許申請の準備をします。」臨床と基礎の研究者、企業と大学の研究者の共同研究の数少ない成功例と自負している。このような経験をもう一度と夢見ているのだが。

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